今から25年ほど前、先代社長の片山勇が長岡市を訪れ、業界紙編集長の紹介で吉沢工業鰍フ故吉澤昭宣社長にお会いしました。その時「板紙(ボール紙)は有用な工業素材だから加工分野においても研究の対象になるはず。」とのお話がありました。当社は長年、板紙を打抜く抜型製造を専業とし、得意先の紙器生産における品質および生産性向上に貢献する努力を続けてまいりました。
しかし、「刃潰れで紙の切断面から紙粉が出る」、「紙を折り畳むと表面にひび割れが入る」などの不具合に、素材の紙が悪い、打抜機械と操作が悪い、いや抜型が適正でない、と三者で責任回避し合い、結局その度に抜型を修正しながら何とか納まればそれで良し、と済ませていたのが現状でありました。
何が悪く、何が良かったのか?基本的なことを知りたい、勉強したいと思い始めたころ長岡技術科学大学機械系の永澤茂准教授に出会いました。研究を開始するには、まず実験装置が要るので型抜き試験機を製作し、基礎になるデータ集めから取りかかりました。解析が進むにつれ福澤康教授の研究室からも協力を得られるようになり、企業側は当社のほかに刃材製作や打抜機製造会社が参加し、製紙会社からは素材の提供を受けて打抜き技術の総合的に研究が進められるようになりました。こうして20余年の間には数多くの学会発表・学術論文や特許出願などを行われてきました。
当社から見た産学共同の利点は何か?
第一に、研究機関としての大学が、研究室を持たない当社の基礎理論に基づく開発を可能にします。
第二に、公的機関としての大学の実験データを示す事ができます。
その他にも、私達の研究課題で修士、博士の学位を取得して高専や大学の教員になった人、わが業界に進んだ人たちがいるので人材教育の視点でも学と産の双方に意義があります。紙の打抜きから始めた研究も、近年、素材の複合化や樹脂系材料を含めるようになり、電子部品など紙器以外の工業製品市場にも広がりを見せています。共同研究で要素技術を積み重ねて得た“種”を製品にして花を咲かせ実を生らせるのは企業の役割であり、新製品の実用化と新分野の事業を展開するため、平成16年に長岡市の育成施設“ながおか新産業創造センター”に入居しました。特に地域状況や分野に合わせた協力者の紹介など情報ネットワーク作りを中心とした支援体制は事業計画を進める上で効果的です。その成果もあって、2008年、新たな拠点を長岡オフィス・アルカディアに設けて育成施設から巣立つことが出来ました。
板紙材の型抜加工−入門編−
編著:永澤 茂
共著:村山光博/福澤 康/貞本 晃
B5判 143頁 ISBN 4-906364-42-X
定価6,500円 亀田ブックサービス
2004年7月26日発行
板紙類の型抜加工の問題は、いろいろな総合技術の体系から構成されている。工具の切れ味と被切断材の変形能を知り、適切な工具の形状と妥当な材質を選定して良い型をまず製作する必要がある。次に紙器製造の立場から、平盤機の切れむらを解消して刃の耐久性を確保すること、罫線が確実にかつ表面割れなく形成されるように配慮すること、印刷塗料の機械的特性(割れ、へげ、摩擦係数の変質等)を安定化するための温度管理や、製函工程に必要な罫線剛性の調整をすること、刃先の損傷や紙詰まりを迅速に診断し修復すること等の多岐にわたる運用技術を必要としている。本書はこれらのごく一部をさらに単純化して解析・説明を試みたものである。